インボイス制度における振込手数料の扱い
振込手数料ご負担のお願い
拝啓
平素より格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。 当社では、2023年10月より導入されたインボイス制度に対応するため、より正確な経理処理を行うべく体制を整えております。
当社のシステムは、税込みの請負金額に基づいて稼働しており、適切な経理処理を維持するため、請求金額に対する単純な値引き処理を行うことが難しい状況にございます。 つきましては、振込手数料に関しましては、お手数をおかけいたしますが、お振込いただくお客様にご負担いただきますようお願い申し上げます。
なお、適格返還請求書の発行が不要な点は承知しておりますが、当社としては、経理上の正確性を確保しつつ、お客様とのお取引を円滑に進めて参りたい所存です。
何卒、ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
今後とも変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。
敬具
古木建設株式会社
代表取締役 古木 賢治
振込手数料をお客様にご負担いただきたい理由
適格請求書(インボイス)の金額が正確に一致する必要性
インボイス制度では、適格請求書に記載された金額を基に仕入税額控除が行われます。請求書に記載された金額と実際の取引金額が一致していることが重要です。
振込手数料を受取側(請求書発行者)が負担する場合、実際の入金額が請求書記載の金額と一致しなくなります。このズレは経理処理を複雑化させるだけでなく、送金者が振込手数料のインボイスを取得する形となるため、請求書発行者はそのインボイスを取得できず、支払先や金額を把握することができません。
当社の経理では、適格請求書等の証拠書類をもとに正確な仕入税額控除を行っております。そのため、証拠書類がない振込手数料の支出については、処理を行わない方針としております。
当社は、インボイス制度において適切な経理処理を維持し、より正確な経理処理を行うべく体制を整えております。
当社が振込手数料を負担する場合の経理処理について
当社は、自社開発の経理システムを採用しているため、当社が振込手数料を負担した場合の経理処理は、下記の①~③の処理方法がありますが、どれも適格な処理とは考えられません。
①.売上値引きとして扱う
振込手数料分(440円)を売上の値引きとする場合、本来であれば買い手側が売り手側へ440円の値引きを受けたとして適格返還請求書(返還インボイス)を発行するのですが、令和5年の税制改正により、1万円以下であれば返還インボイスが不要となりました。 ただし、当社のシステムが税込み請負金額(請負契約)に基づいているため、単純な売上値引きとして処理はできません。
②.支払手数料として扱う
振込手数料分(440円)を支払手数料として扱う場合、売り手側(当社)は、買い手側(お客様)が金融機関から受領した振込手数料の適格請求書及び立替金精算書の交付と保存が必要となります。
買い手側(お客様)が「金融機関の適格請求書」を受領し、かつ「立替精算書」を当社に交付するが受取り保存する必要があり複雑です。
振込手数料分を支払手数料として扱う場合、売り手側は買い手側が金融機関から受領した振込手数料の適格請求書を添付した立替金精算書の保存が必要となります。
※当社は、基準期間または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の「一定規模以下の事業者」に該当しないため、「金融機関の適格請求書」の保存が必要です。
③.会計上支払手数料とし、消費税法上売上値引きとする
売り手側は帳簿では支払手数料としますが、消費税は売上の返還として処理します。適格請求書は税制改正の適用により不要となり、帳簿上は従来通りの処理と一定の事項の記載で完結します。
ただし、当社の経理システムには、消費税区分コードに「売上返還」の区分がないため、「仮受消費税」を減額することはできますが、明確な経理処理ができません。そのため、消費税の売上の返還は行っていません。税込みの振込手数料相当額を「支払手数料」として処理しています。(消費税額の売上返還や、消費税額控除などはしない方針です)
- 当社の経理システムに「売上返還」の消費税区分の追加することも考えられますが、経理処理が複雑化するだけで、経理業務の簡素化と事務負担の軽減にはならないと考え現時点では追加変更は考えていません。
- 売り手側(当社)と買い手側(お客様)双方がインボイス制度に準じた仕入税額控除を正確に行うためには、振込手数料を送金者様にご負担いただくことが最も適切と考えています。
国税庁が公表したQ&A(問29)
(売手が負担する振込手数料相当額)
問 29 売手からの代金請求について、取引当事者の合意の下で買手が振込手数料相当額を請求金額から差し引いて支払うことで売手が負担する商慣行があります。この売手が負担する振込手数料相当額について、売手が代金請求の際に既に適格請求書を交付している場合に、必要となる対応を教えてください。【令和5年4月追加】【令和6年4月改訂】
【回答】は、国税庁が公表したQ&A(問29)を参照して下さい。
令和5年4月の追加内容
令和5年4月に国税庁が公表したQ&A(問29)では、売手が負担する振込手数料相当額について、以下のような取扱いが示されました。
買手が振込手数料を差し引いて支払う場合、売手はその差額を「売上に係る対価の返還等」として処理することができます。
この場合、売手が既に適格請求書を交付していても、適格返還請求書の交付は不要とされました。
令和6年4月の改訂内容
令和6年4月には、上記のQ&Aが改訂され、さらに詳細な取扱いが明確化されました。
売手が買手から「代金決済上の役務提供(支払方法の指定に係る便宜)」を受けた対価として振込手数料相当額を負担する場合、売手の買手に対する課税資産の譲渡等と、買手の売手に対する代金決済上の役務の提供は、それぞれ異なる課税資産の譲渡等となります。
この場合、売手は振込手数料相当額を「支払手数料」として処理し、買手からの役務提供に対する対価として扱います。
インボイス制度の開始に伴い、振込手数料の負担に関する実務処理が追加・改訂され、事務負担の軽減が図られました。一方で、インボイス制度では、適格請求書に記載された金額を基に仕入税額控除を行うことが基本とされています。当社の経理システムに制限があるため、当社では、問29(売手が負担する振込手数料相当額)に該当しない取引をお願いし、適切な経理処理を維持しつつ、お客様とのお取引を円滑に進めて参りたいと考えています。